認知症から温暖化まで
2004年11月26日毎日新聞掲載
文:立川志の輔

 ふう〜、この文筆が掲載されるころには、すでに暮れ恒例のパルコ公演の火ぶたは切って落とされています。

 書いている今は、まさに9年目を迎える全国16日間公演の初日前夜であります。

 公演最初に何を言おうか、夜中にパソコンに向かいながら、いいフレーズやギャグが頭に浮かぶと、一人ほくそえみ、苦しいながらもなかなか捨てがたい時間を過ごしています。

 でも、最初の言葉は決まっています。

 いえ、別に決めたわけではないのですが、舞台に出ると毎年きまって自然に口をついて出てくるのは「今年ほどすごい年はありませんでしたね」です。

 これに、毎年きまって大きくうなずく客席。

 毎年、言葉では言い尽くせない事件が多すぎる。

 そんな1年を、志の輔らくごで笑って終えてほしい、そして新たな年を新たな気持ちで迎えてもらえる一助になれれば、と思います。

 言葉と言えば、認知症という新たな用語が誕生しました。痴呆症の代替用語。

 「ボケが始まった」より、「痴呆症になった」より、「認知症らしい」の方が時代にふさわしいと厚生労働省が判断。

 痴呆になったと痴呆の人が聞いたら気を悪くするだろうからという懸念でもあったのか。

 でも、気を悪くするぐらいなら痴呆じゃないだろうに、と突っ込みたくなります。

 私はいまだに女性客室乗務員とかアテンダントとは言えなくて、スチュワーデスから抜け出せません。

 看護師さんより看護婦さんと言ってしまいます。

 「うちのおじさん、認和症になって看護士さんによくしてもらって」 

 と口からすっと出るようになるにはかなり時間がかかりそうです。

 それより「寝たきり老人」をなんとかしませんか?

 希望もユーモアも感じられない「寝たきり老人」。

 寝たくて寝てるんじゃないのに。

 かと言っていい代替用語がうまく浮かぶわけでもないのですが。

 プチ家出、プチ整形などと、家出や整形をたいしたことじゃないように感じさせるかわいげな言葉を選ぶ若者感覚。援助交際、温暖化、など深刻な事態を、のんびりした感じを与える言葉で表現する不思議な言語感覚。

 日本語って面白い。だから日本に「落語」が誕生したのです。

 すごい時代には軽い言葉が必要とされるのでしょう。

 そこで、今年の「志の輔らくご」。日本語の神様は、新作落語に、いったいどんな言葉をプレゼントしてくれたのか。

 私自身がわくわくしているのです。


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