落語な世間
2004年9月17日毎日新聞掲載
文:立川志の輔

 先日、「六人の会」が主催する落語台本コンクール受賞作品の表彰式が行われました。

 834通、約1000作品の応募があったといいますから、ありがたいことです。

 作品の色も多彩で、佳作にはテレビが喋り始める近未来的な「テレビの神様」 (兵庫県・丹野一郎作)、優秀賞にはいきがかり上、猫にならざるをえなくなった魚屋の悲喜劇「猫次郎」 (世田谷区・栗原昇作)、最優秀賞には、身投げ志願者をひきとめたばかりに身投げが逆にイベント化していく「身投げ橋」 (愛知県・横井正幸作)。特別賞も出て、会場は大盛り上がりでした。

 自分の書いた作品が高座で演じられるのを、客席で他のお客さんと一緒に聞いているのってどんな気分?

 来年も是非応募が増えますように。

 さて私の方はと言えば、新作落語を日常的につくり続けなければならないプロなわけですが、1年のうちで最もワクワクする年末恒例行事、今年9年目を迎える「新古典の世界」と題するパルコ公演が近づきました。

 毎年、その年ならではの新作と古典を発表し続けてきたと自負できる公演ですが、新作づくりで年々困るのは、現実の世間が落語みたいに面白くなっていることです。

 温泉疑惑問題なんて、そのまんま落語。

 「水道水に入浴剤を入れて『温泉』というのがあるなら、本当は温泉なんだけど、どこかから無許可で温泉をひいてきちゃってる苦悩の温泉なんていう新作落語ができるなあ」と打ち上げでわいわいしゃべっていたところ、その後、県に無許可で温泉を掘り、それを隠すためにずっと「当温泉は井戸水です」という張り紙を張っていたという新聞記事を発見。

 もしかしたら、私らの打ち上げでの雑談を新聞記者が冗談記事にして紹介したのかと思ったくらい、似た現実に笑ってしまいました。

 瀬戸内海の島の民家に全長70bの大型貨物船が突入した事件だってあまりにも落語。

 幸い命に別条なかった老人の家に、居眠り運転で突っ込んでしまったらしい船長が謝罪に出向く様子を、ワイドショーが突撃取材していました。 マイクを突きつけ「船長、原因はなんだったのでしょうか!?」。

 さすがに恥ずかしいのでしょう、ノーコメントの船長。

 そして被害者の家に到着した船長の第一声は

 「夜分にご迷惑をおかけいたしました」

 私はひっくりかえりましたね。

 「夜分」という日常語と大きな非日常の事件のギャップ。

 じゃあ、日中だったら多少はよかったのか、と画面を見ていた人は一斉に突っ込んでいたことでしょう。

 つい口をついて出た言葉のおかしさ。

 新作であろうが、古典であろうが、常に人間を追い続けて描くのが落語。

 刻々と変化し続ける環境にそって、確実に変化し続けるコミュニケーションのスタイル。

 今年のパルコ東京公演は合計12日間。

 初日まで2カ月半。

 キーワードは「今年の落語あります」。

 お待ちしてます。


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