花火を打ち上げる「間」
2004年9月3日毎日新聞掲載
文:立川志の輔

 手筒花火というのを御存知ですか?

 岐阜県高山市では、8月9日、この花火100発が盛大に打ち上げられました。

 川面に浮かぶ光の饗宴(きょうえん)。

 1年かけ丹精こめて作られた花火が一瞬のうちに闇に消えます。

 豪勢、贅沢。

 見る側も一瞬なら、見せる側も一瞬。

 消防団の方が腕に抱えるのは藁にくるまれた竹製の筒。その中に詰められた火薬に点火されるや、火炎は勢いよくあがり、空に向かって10bもの火柱になります。

 15年前、私は、この手筒花火を抱えるという貴重な体験をしました。

 市内の真ん中を流れる宮川に設置された舞台に登壇し、花火を抱えた瞬間から自分の番がくるまで、テレビ番組のレポーター仕事だから危険はないとは思うものの、口の中が徐々にパカバカに乾いていくのがわかりました。

 会場アナウンスが流れます。

 「本日は、テレビ番組の収録も行われています。東京から落語家の立川志の輔さんが手筒花火に挑戦します」

 もう逃げられません。

 盛大な拍手の中、筒を抱えていると、そばにいた消防団の方が言いました。
                                                                「右足を後ろに引きなさい。いいですか。しっかりと後ろに引きなさい」

 頭ではわかっていても体が思うように動きません。もたもたしていると、

 「いいですか。きっちりしないと、こんなふうになるよ」

 ズボンのすそを上げて見せてくれた片方の足は、義足……だったような。それを見た私は、はっと我に返り、腰を入れ右足をうんと後ろへ引き体勢を整えました。

 「点火!」の声とともに、シュシュシュシュシュと大きな蛇が私を襲うかのような音、次にズドンと耳をつんざく爆音、同時に筒の下から圧縮された空気がボンッと抜けました。

 お客さんの大歓声。

 緊張感が一挙にほどけた私がいました。

 そんな体験があったものですから、対談で、毎年江戸川の花火大会を総指揮している宗家花火鍵屋の15代目を襲名した天野安喜子さんにお会いしたときはびっくり。目の前の可憐な様子とあの危険と隣り合わせの花火師が結びつきませんでした。

 幼いころから、あのお腹に響くドーンという音が好きだったと言いますから、お父さんの後を維ぎ、鍵屋340年の歴史の中で初の女性花火師になったのも運命なのでしょう。

 大学在学中に「火薬類取扱。保安責任者」の免許を取得。花火師修行を終え、現在33歳。

 準備から実施まで1年かけて、花火の内容、その年のテーマ、BGMを決め、何百人の花火職人を仕切る、大変だけれどやりがいがいっぱいの職業です。

 「私、花火大会を見ながら涙を流したことがあるんですよ」と言うと、

 「それは素晴らしい『間』の花火大会だったのですね」と天野さん。

 花火大会を成功させる秘訣は、とにかく花火をあげる「間」だそうです。

 花火は名指揮者である花火師によって支えられているのですね。


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