竹炭のアトピー性皮膚炎に対する消炎効果について
京都大学木質化学研究所 野村隆哉

 前述したように、私の周りで竹酢液によってアトピー性皮膚炎が軽減したり、改善されたりした人々と効果がなかったり、逆にひどくなったりする人を分けると、効果があった人の方が多い。これらの人々は、そのほとんどが既存の治療法によって症状が改善されなかった経験を持っている。このような人々に対して治療効果があるということは、新規の治療薬として大いに注目されても良さそうなものであるが専門家は横を向いたままである。あまり批判ばかりしていると嫌がられるので、拙いながら専門書から援用した知識を基に、アトピー性皮膚炎に対する竹酢液の効果について述べてみたい。

 始めに、竹酢液と木酢液の組成分の類似性、相違を表三にして分けておく。木酢液は、文献値で、アカマツ、クヌギ、カラマツ、ヒノキおよびユーカリについてのもので、微量成分についてはあげていない。竹酢液は、モウソウチクが主で、一試料だけマダケが入ったものをまとめてある。表三で見ると、木酢液にあって竹酢液にないものもあるように見えるが、この表は両者とも測定の際に微量成分は分類しないで省いてあることを念頭において見ていただきたい。表三から分かるように両者では、主要成分の構成は共通するものもあるが、異なるものもあり、特に、フェノール類での違いがある。両者とも多成分系のややこしい混合物であることは同じであるが、竹酢液の場合は、モウソウチクやマダケに特定できる点で少しは扱いやすいだろう。

 アトビー性皮膚炎の詳細については、メルクマニュアルという医学全般にわたる最新の情報を簡潔にまとめた素晴らしいテキストブックに出会ったおかげで私のような専門外の人間が最新の医療知識を身に付けることが出来るのはありがたいことである。

 この本は、アメリカで1899年に初版が出てから1992年の第16版まで93年の歴史がある。これは医者や医学者だけではなく、一般の人々が手にすることが出来る素晴らしい本である。翻って我が国の医学界を見ると、この手のものは見ることがない。何ともお粗末な限りであるといわざるを得ないが、愛知県ガンセンターの福島雅典さん達の手によって1994年に日本語の翻訳版が出来たのはせめてもの救いであろう。

 アトビー性皮膚炎は、これまで効果の顕著なステロイド剤(副腎皮質ホルモン)の投与によって対症療法的に安易に扱われてきたようであるが、メルクマニュアルを読むと免疫不全疾患に関わる厄介な問題がその奥に隠れていることが理解できる。

 詳細は、メルクマニュアルを読んでいただくことにしてアトピーについて簡単に説明しておくと次のようであ
る。
 
アトピー性疾患とは、四種類の型に分類された過敏症による疾患のT型に分類されるもので、外来性あるいは内存性の抗原(アレルゲン)が組織の肥満細胞と血中の好塩基球の膜受容体に結合している特異的な抗体である免疫グロプリンEと結合した結果引き起こされる。

 この抗原抗体反応によって、
強力な血管作動性および炎症性の媒介物質の放出を引き起こす。この媒介物質はいろいろあるが、代表格がヒスタミンで、血管の拡張、毛細管浸透性の増加、腺の分泌過多、平滑筋の痙攣、お
よび好酸球と他の炎症性細胞による組織浸潤を生み出す。
これがアトビー性皮膚炎である。このヒスタミンは人間
の皮膚に多く分布している。ヒスタミンの構造は右図のょうな化学構造をしており、エチルアミンの仲間である。エチルアミン(C2H5NH2)はアンモニアよりも強い塩基性の物質で酸と出会うと塩を生成する。
ヒスタミンは、普段は他の物質と結合して不活性な状態で皮膚や筋肉等の肥満細胞と呼ばれる細胞内に顆粒状で存在しているが、上述したょうに抗原(アレルゲン)が出現するとそれに対する抗体(免疫グロブリンE)との反応で活性化され、アトピー性皮膚炎を引き起こすことになるらしい。しかし、ヒスタミンの特異的恒常的機能についてはほとんど分かっていないらしい。

 ヒスタミンの作用には、H1レセプター(受容体)を介する作用とH2レセプターを介する作用があるらしいが、これらのレセプターについてもその作用機構は分かっていないようである。要は、
不必要なヒスタミンの出動を抑えてやればよいわけである。

 分かりやすく言えば、ヒスタミンとH1レセプターによって、主としてアトビー性皮膚炎が、ヒスタミンとH2レセプターによって濃瘍性疾患が生ずるのであるが、
ヒスタミンとH1およびH2レセプターがくつつく前に無害の物質をそれぞれのレセプターにくつつけてやり、ヒスタミンがレセプターに結合するのを阻止すればよいという考え方である。

 この考えの基になるのが、レセプターを鋳型の雌型、ヒスタミンを雄型と考え、雌型にヒスタミンがはまる前に別の物質を嵌め込むような表現がされている。

 ヒスタミンH1受安容体括抗薬(H1ブロッカー)として用いられている抗ヒスタミン剤を表四に一覧表にして示す。表四から明らかなように、人間に対する生理作用の点から見れば、気持ちのよい物質ではない。これらが薬として認められているのである。しかも下手すると副作用によって新たな疾患を誘発する可能性を明確に持っており、この事についてもメルクマニュアルにははっきりと記載されている。何とも気持ちの悪い話ではないか。背に腹は替えられないとはいえ、まさにブラックユーモアである。

 これらH1ブロッカーは経口、経肛門的あるいは静脈注射、筋肉注射によるもので、特に胃腸管からよく吸収されると述べられている。外用とは書かれていない。このことから考えると、これらの薬剤を用いた坑ヒスタミン軟膏などの塗布薬の効果は疑問視されるのではないだろうか。もし、効果があるとすればそのほとんどは副腎皮質ホルモンを含んでいると考えるべきであろう。

 通常の抗ヒスタミン薬は一つあるいはそれ以上の環状基に結合したヒスタミンに類似の置換されたエチルアミン側鎖を持っている。上図に示したヒスタミンの化学構造のエチルアミン部分と抗ヒスタミン剤の置換されたエチルアミン構造の類似性がヒスタミン受容体との反応において重要で、ヒスタミンに対して括抗的阻害物質として作用するようである。

 さて、本稿の目的は竹酢液がアトビー性皮膚炎に対して効果の可能性を論ずることであるから、複雑怪奇な病理の解明という袋小路に入ることは避けて、端的に整理してみよう。

 表四はヒスタミンによる種々の障害を止めるための基本物質を示す。これらの物質の官能基を見てみると、いろいろのものが存在する。これらの官能基が機能するのであろう。

 これから推論出来ることは、抗ヒスタミン薬の機能はヒスタミンあるいはその受容体の官能基に、より反応性の高い他の官能基をくつつけてしまい、ヒスタミンや受容体の機能を変えてしまえばよいという単純な構図が考えられる
。竹酢液に含まれる多くの成分には、抗ヒスタミンと同じ官能基が存在する。しかも、生理的には厄介なアミン類については、抗ヒスタミン剤のような複雑な化学構造のものはない。それに、シアノ基(-CZ)を含まないから、素人目には既存の抗ヒスタミン薬より生理的には安全のような気がする。

 その上、ヒスタミンやその受容体の官能基とよりラジカルに反応し、それらを不活性化するとなれば願ったりかなったりであろう。なぜなら、
竹酢液に含まれている官能基は、特定の抗ヒスタミン剤よりはるかに多く含まれており、より活性化機能の強い官能基が存在するかもしれない

 
竹酢液に含まれる多くの酸類は、ヒスタミンのエチルアミン構造と反応して塩を生成し、これによってもヒスタミンを不活性化するかもしれない。現象的には、竹酢液はアトビー性皮膚炎に対する消炎効果が認められるのであるから、上述のような反応が起こっていると考えて間違いないであろう。

<日本竹炭竹酢液協会 会報2より>